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The Zookeeper
     ズーキーパー/戦争から動物園を守った飼育係

デンマーク・チェコ映画 (2001)

ジャヴォル・ロズニツァ(Javor Loznica)が、内戦下で行き抜く少年の姿を準主役で演じる内面的なドラマ。舞台は、曖昧にバルカンのどこかの街とだけ設定されている。時代も不明。しかし、バルカン半島にUNの青いヘルメットを被った国連軍がいることから、1992-95に国連軍が派遣されたユーゴ内戦の前半を想定して観ていてもいいのかもしれない。ただ、ジャヴォルが演じるゾイク(Zioig)や母のアンキィッツァ(Ankica)の発音はロケ地のチェコ語。だから、場所は、旧共産圏ということで、架空の場所と解釈した方がいいのかもしれない。題名から“The”が抜けただけのハリウッド映画『Zookeeper(Mr.ズーキーパーの婚活動物園)』(2011)のように、お手軽で気の抜けたコメディではない。内戦下の動物園を守ろうと1人残った飼育員と、村ごとゲリラに襲われ九死に一生を得た母子の出会いが生み出す様々な葛藤を描いた辛い映画だ。主演のサム・ニールは、『ジュラシック・パークⅢ』『月のひつじ』に次ぐ主演だが、バラエティ誌の評では、その抑えた演技が賞賛されている。ジャヴォルは、台詞こそ少ないが、12歳くらいの少年にも係わらず生と死の挟間で自立的に生きていく姿をリアルに演じていて素晴らしい。彼に関するデータはどこにもなく、「BoyActors」のサイトで出身国チェコと書いてあったので、一応それに倣ったが、Javor Loznicaはデンマークの名前にもあり、どちらが正しいかは分からない。

内戦下にある地域の、ある大都市が、反政府軍かゲリラ組織から砲撃を受け、空港も閉鎖される。動物園の園長は、職員の安全確保のため、動物に餌をやる人物1人をボランティアとして募り、残りの職員は退避させることを決意。それに手を上げたのが、妻と別れ、内務省の要職を何らかの理由でやめて隠遁生活を送っていたルドヴィッチだった。一方、ある田舎の村では、村民全員がゲリラに捕まり、男達は(その中にはゾイクも入っていたが)手をつないで横一列に並ばされ、そのまま地雷原に入って行かされた。ゾイクは、地雷爆発のあおりで足を負傷しながらも、死んだふりをしてゲリラの目を逃れることに成功する。国連軍に助けられるが、難民キャンプに入れられるのを嫌って、街の近くで走行中のトラックから逃げ、動物園に迷い込む。足の傷が悪化して死にそうになるが、ルドヴィッチが猿用の薬を注射して一命を取り留める。しかし、ケガがある程度回復した後、「ゾイクはルドヴィッチの片腕として動物園を守りました」などという安易な筋書きにはならない。ゾイクは、拘束を嫌い、街に逃げては死体から銃やタバコを盗むような殺伐とした日々を送るが、ある日、ゲリラから逃げ出し、息子が街に行ったと聞き捜しに来た母と遭遇する。食事と薬を求め、母子で動物園を再訪し、銃で脅して援助を強要するゾイク。ゾイクは動物、特に狼が好きで、母が動物園に居着いた後も、街から帰っては狼と会っている。一方、街を支配している自衛団のようなミニ軍団は、時々、動物園をチェックに来て、食料として家畜を奪っていったりしていたが、ある時、兵士が1人で来訪した時、ゾイクが父を殺した恨みを込めて射殺する。いろいろな映画を観てきたが、これほど怒りに自らの心を閉じ込めた少年を見たことがない。最後には、動物園が砲撃の対象になり、多くの動物が殺され、狼舎も破壊され、ゾイクも涙にくれる。ルドヴィッチは、ゾイクの母の説得に応じて、動物園を離れることに同意する。彼にとってゾイクの母は、愛の対象になり始めていたが、動物園を出ようとした矢先に、スナイパーにより射殺される。ゾイクと2人で母の遺体を埋め、国連軍の保護地域に向かう2人。その後、ルドヴィッチはゾイクをどうするのだろうか? ラスト・シーンからは、人間性を取り戻したように見えるゾイクを、引き取るだろうという希望が感じられる。

ジャヴォル・ロズニツァは、最初から最後まで汚れて、意地っ張りで、感情を亡くしたような少年だ。ボスニア内戦を描いた『ボスニアの青い空』のブラドの方が、ずっと明るく、人間性も残っている。この1作だけに出演した子役だが、映画の中の姿はとても印象的だ。


あらすじ

ドアに板を打ち付けて隠れていた家族3人。ゲリラが板を叩き割って家の中に入って来る。恐怖に凍りついたように、それを見る親子(1枚目の写真)。他の家でも、住民が外に連れ出されている。「女は左、男は右だ!」。母が幼いゾイクを一緒に連れて行こうとするが、「ダメだ、そいつは男の方だ!」と制止される。必死で「やめて!」と叫ぶ母を無視し、ゾイクを含めた男たちはトラックに乗せられる。途中で逃亡できないよう、幌付きのトラックだ。父が、泣いているゾイクに、「お前は男だ。男は泣かない」と言い聞かせる(2枚目の写真)。後で、2度使われる重要な言葉だ。

村人は、「全員、出ろ!」とトラックから降ろされる。そして、「一列に並べ!」「手をつなげ」「歩け! 止まったら撃つ!」と矢継ぎ早に命令が下る。一列になって畑の中に足を踏み入れる村人たち。突然、爆発が起こり、列が途切れる(1枚目の写真)。そこは地雷原になっていて、誰かが踏むと、その近くにいる数人が吹っ飛ぶ。ゲリラによる、残忍で、人命をもてあそぶような殺人行為だ。それでも、止まると撃たれるので、先に進むしかない。2回目の爆発で、ゾイクの近くの人が地雷を踏み、ゾイクも巻き込まれて倒れる。ゾイクは足にケガを負ったが、痛みをこらえて暗くなるまで死んだフリをし続ける。夜になって、辺りを窺うゾイク(2枚目の写真)。

どこかの動物園に、一介の飼育係として勤めるルドヴィッチ。昔は、政府の要職(?)に就いていた人物だが、今は、妻子とも別れ、目立たぬようひっそりと暮らしている。朝、いつものように制服を着て、身だしなみを整える(1枚目の写真)。帽子と襟章の「300」は、数字でなく、ロシア語の「ЗОО」(英語のZOO)のことだろう。場所は、バルカン半島のどこかという設定なので、旧東欧圏、だからロシア語が使われていてもおかしくはない。通勤は自転車。路面電車の軌道があるので、かなりの大都市だ。それに、大都市でなければ、大規模な動物園などはないはずだ。動物園の正門に近づくルドヴィッチ(2枚目の写真)。門の内側で園長と職員が話し合っている。「連絡はとっている。政府からの回答待ちだ」。「こんなのやってられるか。給料を寄こさんのなら、働かんぞ!」。それだけではない。ルドヴィッチが疎い(というか、無関心な)だけで、戦争のため公共交通はストップし、迫撃砲の砲撃で動物園の虎も1頭殺された。その日、アパートに帰ると1通の手紙が待っていた。それはパリに住んでいる娘からのものだった。「お父さん、まだ身を隠しているのですか? 単刀直入に言いますが、パリに来るべきです。もう政府の職員ではないはず、よく暮らせていますね。お母さんは、お父さんを許しています。今は、自分自身を許すべき時です。お父さんが過去を忘れることができたら、私はまた娘に戻れます」。これだけでは、意味不明の手紙だ。でも、何か暗い過去、自分が自分を許せないような過去が、現在のルドヴィッチの無気力で無感動な人生の原因になっているだろうと推測できる。明くる日、ルドヴィッチが動物園に行くと、園長は、「今朝、空港は閉鎖された。外交官を避難させるための軍用機だけが離陸できる」は現況を説明する。そして、国際動物園連盟が動物を引き取りに来るまで、ボランティアにここを守ってもらうしかないと切り出す。沈黙の中で、ルドヴィッチが「私が残る」と引き受ける。園長は、市街から通うのは危険なので、動物園の中に住むことを勧める。そして、貯蔵庫を案内しながら、動物の餌(飼料、肉、魚)は、引き伸ばせば10週間はもつと説明する。

国連軍のトラックがやってくるのを見て、雪道の真ん中で、足を負傷したゾイクが突っ立ったまま待っている(1枚目の写真)。いくら警笛を鳴らしてもどかない。「停まるな。罠かもしれん」。しかし、道の真ん中から動かないので、やむを得ず直前で急停車。囮を使った罠ではなかったので、「また、孤児だ。赤十字に届けよう」と抱きかかえてトラックに乗せてくれる(2枚目の写真)。「入ってろ」。トラックに乗り込んだゾイクは、街に近づくと、積んであった赤十字マークの段ボール箱をこっそり2個持ち出して(3枚目の写真)、道路に投げ捨てる。そして、自分自身も走っているトラックから、落ちるように抜け出す(4枚目の写真)。ゾイクは難民キャンプに入るよりは、自活する道を選んだのだ。

ルドヴィッチがアパートを引き払って動物園に移る日の朝、関門となる橋の上で軍隊が身分証の提示を求めている。ルドヴィッチは身分証を持っていなかったのでトラブルになるところだったが、隊長のドラコフ中尉が、動物園でのボランティアを愛国者的行為だと気に入ったため通してもらえた。この中尉とは、この後で、何度も会うことになる。実は、この俳優、『未来を生きる君たちへ』(2010)では主人公クリスチャンの父を、『悪童日記』(2013)では双子と絡むドイツ軍の将校を演じているデンマークの有名な俳優ウルリク・トムセンだ。動物園で1人になったルドヴィッチは、動物園中のスピーカーで鳴り響くように、「アイーダの凱旋行進曲」をかけて餌やりを始める(1枚目の写真)。獣医が立ち寄り、妊娠しているチンパンジーに毎日必要な黄体ホルモンの注射の打ち方を教えてくれる。夕方になると、狼舎のフェンスの前で1人の少年が食い入るように狼を見ている(2枚目の写真)。隙間から手を入れて狼を撫でようとする。それを見つけたルドヴィッチは、「おい、君、ここは国の管理地だ。君は部外者で動物園は閉まってる。出て行きなさい!」と追い出される。

ルドヴィッチと獣医が、園内のがらんとした食堂で夕食をとっている。獣医:「戦闘が収まるまで、数日ここに留まっていた方が良さそうだな」。ルドヴィッチ:「どこに寝るんだ?」。「こっちが訊きたい」。「門番の詰め所がある」。御互いぶっきらぼうなやり取りだ。その間も、外では銃撃が続き、動物達も怯えている。動物園の近くの市街で、ひときわ大きな爆弾が炸裂する(1枚目の写真)。ルドヴィッチは酒を持って詰め所に行き、非礼な態度を詫びる。獣医:「君は、心の奥のどこかでは きっと良い人間なんだ」。「長いこと、誰もそんなこと言ってくれなかった」。「観察した結果さ」。「それで、良い人間は、悪い時代に何をしたらいい?」。「正しいこと」。なかなかいい言葉だ。この先、酒を飲みながらの会話で、ルドヴィッチの過去の一端が明らかになる。ルドヴィッチ:「壁が崩れた時〔ベルリンの壁のこと〕、はいサヨナラさ。25年間内務省に務めたのに、家1軒持てずじまい」。「内務省にいたのか?」。「ただの仕事さ」。「みんなそう言う」。内務省ということは、治安活動からスパイまで含むので、ルドヴィッチの暗い過去を連想させる。翌朝、ドラコフ中尉の一隊が動物園に乗り込んでくる(2枚目の写真)。「何か動くものを見たら撃て」。そして、ルドヴィッチを見つけると寄って来て「ここの責任者は?」と訊く。「私になるのかな」。「なるのかな?」。「みんな出てった」。それを聞いた中尉、ルドヴィッチと肩を組んで部下の前まで行くと、「これぞ、愛国者だ。この顔を見ろ。地の塩(社会をよくする人)、わが民族の顔だ」と讃える(3枚目の写真)。しかし、その後で獣医が見つかり、人種が違うということで連れ去られてしまう〔結局、後で、動物園の前に吊るされ、ルドヴィッチが埋葬する〕。

ある雨の日、ルドヴィッチが点検のためドアを開けて外に出ようとすると、そこにカラシニコフを構えた少年がいた(1枚目の写真)。「ここは私有地だ。出て行け!」。そう命令しても、足を引きずりながら、戸口に近づいてくる(2枚目の写真)。「何が望みだ?」。少年は、何も言わず、その場で気を失う(3枚目の写真)。先日、忍び込んだ時はまだ元気だったので、地雷の爆発で負った足のケガが化膿して敗血症になりかけてしまったのかも。

ルドヴィッチは、そのまま放置しておけないので、ずぶ濡れの少年を室内に運び入れ、ベッドに寝かせてやる(1枚目の写真)。少年はもう意識がない(2枚目の写真)。ルドヴィッチは靴を脱がせ、化膿した足の傷を見る。そして、「バカな子だ」と言い、酒を飲んで気合を入れると、「私は医者でも獣医でもないから、どうしていいか分からん」「抗生物質を打ってみよう。量はチンパンジーと同じでいいだろう」。注射を打って、「幸運を祈る」とだけ言う。しばらく経ち、ウトウトしていたルドヴィッチは、少年の呻き声で目が覚める。ベッドを見ると、もぞもぞ動いている。近づいて行って額に触り熱を調べる(3枚目の写真)。下がっていたのであろう、「良くなってる」。

熱を下げるために氷を割って戻ってくると、少年はもうベッドの上で体を起こし、ケガをした足を見ていた。「じゃあ、気がついたのか?」。怖がってベッドの隅に避ける少年に、「君を傷つけはしない」と言葉をかける。ようやく、少年は口を開いて、「傷、悪いの?」。「死にやせん。氷で冷やせ」。少年の次の言葉は、「お腹空いた」(1枚目の写真)。「ここ、レストランに見えるか?」。しかし、そうは言っても、食堂まで連れて行き、テーブルに皿を乱暴に置いてやり、「食べろ」。ありがとうも言わずに黙々と食べる少年。突然口を開いたと思えば、「何て名前?」と訊く(2枚目の写真)。「それが要るほど、ここには長くおらん」。また、無言。「家族はいないのか? 母親や父親はどこにいる?」。無言。「ここで、何してるんだ?」。「僕、動物が好き」。「動物を見に来たのか? ここは私の動物園だ。入場料を払うか?」。「パパは、よく動物園に連れて行ってくれた」。話が噛み合わない。イライラしてタバコを吸おうとしたルドヴィッチ。取り出した袋に1本も残っていないので、投げ捨てる。それを見た少年は、「タバコないの?」。無言。「助けようか?」。「助けようかだと? 誰が君なんかに頼む? 君は、ここが安全だと思ってるようだが、そうじゃない。私も安全じゃないんだ、君のせいでな。だから、明日、出て行くんだ!」(3枚目の写真)。名前も名乗らない少年との会話は、これで打ち切られた。

翌朝、少年はビッコをひきながら外に出ると、投げ捨てられていたカラシニコフを拾い上げ、そのまま狼舎に向かう。銃をフェンスに立てかけ(1枚目の写真)、狼に手を差し伸べる。一方、ルドヴィッチが朝起きると、少年のいたベッドはもぬけの殻。邪魔者がいなくなったとばかり、「アイーダの凱旋の合唱」を大音量でかけて、手拍子をとりながら園内を歩く(2枚目の写真)。象に干草を投げてやり、「お前が一番ダイエットしないとな」。そして、「これで我慢しろ」。

ここで、大きな変化が訪れる。いつも座っている机からふと窓の外を見ると、少年と、もう一人の大人がこちらに向かって来る(1枚目の写真)。せっかく追い出したのに、2人に増えて戻って来るとは! 少年は勝手にドアを開けて入ると、同僚を手招きする。ルドヴィッチ:「いったい何の真似だ?」。そんな問いかけには構わず、少年は中に入ると、棚から薬を取り始める。「命を助けてやったのに、これがその礼か?」。銃を構え、撃鉄を起こす少年。いつでも撃つことができる。「私を殺すのか?」。ルドヴィッチは、戸口に立ったまま無言の大人に、「何か言うことはないのか?」と訊く。「名前は?」。代りに少年が、「食料と薬を寄こせ」と言う(2枚目の写真)。その時、女性の声がして、「名前は危険よ。殺されるわ。シャワーはないの? 何日も洗ってない」。「動物園は閉園中だ!」。無言。「銃を降ろせ」。そして、ドアを閉める。これは、脅迫下において、滞在を許したことを意味する。さっそく、胸に何重にも巻いた布を外し始める女性(3枚目の写真)。髪もショートカットなので、声を聞かない限り男性と間違える。女性は、「男たちは撃ち殺され、女たちはレイプされた」と言う。それが男装した理由だった。

女性が湯を浴びるということで、ルドヴィッチは、少年を餌やりに連れ出す(1枚目の写真)。ちゃんと歩けるのを見て、「今日は、ちゃんと歩けるんだな」。「歩けるよ」。「それで?」。「それで、何?」。「あの女性は何なんだ?」。「僕の母さん」。「母さん? 孤児じゃなかったのか?」。無言でルドヴィッチを睨む少年(2枚目の写真)。しばらくして、ルドヴィッチが少年に尋ねる。「君の母さんの名前は?」。つぶやくように言う少年。「大きな声で。聞こえないぞ」。「アンキィッツァ」(3枚目の写真)。「次は何だ? 一家全員か?」。悲しそうな顔に、それはないと悟るルドヴィッチ。狼の一匹を指して、「もうすぐチビどもが産まれる」と教える。「知ってる」。「あいつが そう言ったのか?」。頷く少年。「狼と暮らすには、遠吠えができないといかんって知ってるか?」。「ううん」。少年は、ルドヴィッチから餌入りのバケツを奪って餌をやろうとする。「指に気をつけろ。所詮動物だ」。愛おしそうに餌をやる少年(4枚目の写真)。狼も手から直接食べる。

少年が、母の寝ているルドヴィッチの部屋に戻って来る。「ゾイク、どこにいたの?」。ここで、映画の画面上では、ルドヴィッチは初めて少年がゾイクという名前であることを知る。「出血してるの?」。ルドヴィッチが歩み寄り、手を取って「手が血だらけだ」(1枚目の写真)と詰問する。「僕の血じゃない」。そして、ゾイクは、ポケットからカートン入りのタバコを取り出し、ルドヴィッチの胸に突きつけるように渡す。「これは何だ?」。「あんたのために取ってきた」(2枚目の写真)。「タバコのために誰かを殺したのか?」。「もう死んでた」。「この拳銃は?」。「見つけた」。母が、「何がどうなってるの?」とゾイクに訊く。「別に」。この子、誰に対しても無口だ。それだけ心の傷が大きいということだろう。それでも、もらったタバコを吸おうとするルドヴィッチに、ライターで火を付けてやろうとする。慣れていないので、火が付かない。「カラシニコフは使えても、ライターはダメなのか?」「これも、見つけたんだな?」。ルドヴィッチが別室で作業をしていると、アンキィッツァが「説明させてもらえる」と話しかけてくる。「ゾイクが、あなたは友達だと言って、ここに連れて来たの」。さらに、別れた経緯についても、「兵士が来た時、ゾイクは男達と連れて行かれた。あの子の父を見たのは、それが最後。女達は、兵舎に連れて行かれた。そのうちの一人は、昔、奥さんが病気の時 看病をしてあげた。でも、そいつは兵士達の中で最悪だった。ナイフを突きつけてレイプするの。首の後ろにね。そして涙を流すアンキィッツァ。「どうやって、ゾイクを見つけたんだね?」。「安全な所まで逃げた時、そこにいた村人から、街に行ったと聞いたから捜しにきたの。自活できるようになってるなんて思わなかった。もう大人みたい。あの子らしくないわ。でも、優しくしてやって、お願い。あなたに気に入られたいだけだと思うの」。

ゾウ舎を訪れた2人。1頭が倒れている。「どこが悪いの?」とゾイクが尋ねる(1枚目の写真)。「分からんな。寒いせいか、何週間も満足に食べてないからだろう」。「何とかしてよ」。「何もできん。祈るしかな」。「食べさせるか、獣医を呼べば?」(2枚目の写真)。しかし、食料は不足、獣医は殺害され、ルドヴィッチも忸怩たる思いだ。ゾイクが手を伸ばしてルドヴィッチの手を握る。打ち解けるいい機会なのだが、ルドヴィッチは握られた手を離す。この辺りが、「如何にもありがち」な設定を排除したリアリズムだ。

猿舎で、檻越しに水を飲ませてやるルドヴィッチ(1枚目の写真)。左後ろに写っているゾイクはタバコを口にくわえたところ。そして、火をつける(2枚目の写真)。それに気付いたルドヴィッチ。「おい! タバコなら外で吸え。動物に良くない」。子供の喫煙を止めないところがすごい。

その時、外で音がする。中尉の部隊のジープが入って来たのだ。アンキィッツァが見つかったら連れて行かれることは必至。そこで、ルドヴィッチは、納屋のような所の、梯子で登った2階の藁束の間に彼女を隠す。ルドヴィッチがチンパンジーを手に持っているのを見た中尉は、「友達を見つけたのか?」と声をかける。アンキィッツァのことを言われたかと思い一瞬固まるルドヴィッチ。「可愛い恋人じゃないか」。ようやく猿のことかと気付き、「ありがとう」と答える。中尉は、「悪い知らせだ。動物を少し頂戴していくぞ」。「何のため?」。「兵隊も腹が減る」。中尉は、先ほどのルドヴィッチの様子に疑念を抱いたので、ルドヴィッチが出てきた納屋に入って行き、一番の部下に、2階を調べるよう命じる(1枚目の写真)。この危機は、アンキィッツァがうまく隠れたのと、ルドヴィッチが中尉へのプレゼントとしてライオンの子を贈ったことで、何とか回避することができた。一方のゾイクは、カラシニコフを手に、うまく隠れている(2枚目の写真)。食用になりそうな家畜に近い動物を数頭トラックに乗せた部隊は、マスコット代わりにもらった子ライオンを掲げた中尉を中心に、ルドヴィッチに記念写真を撮ってもらう(3枚目の写真)。ご機嫌で退散する一行。命を救われたアンキィッツァは、ルドヴィッチの頬にキスして「ありがとう」と言う。2人の最初の接近だ。

それから、どのくらい日が経ったのか分からないが、先ほどのシーンと違い、動物園には一面に薄っすらと雪が積もっている。そして、象舎では、弱っていた象が死に、残った1頭が悲しそうに鳴いている(1・2枚目の写真)。ルドヴィッチ:「ああ神様」。ゾイクは、感情を押し殺すように、コンクリートの手すりを両手で叩き始める。ルドヴィッチは、なだめるように「気にするな」と話しかける。「違う、そんなんじゃない!」。「何が言いたいんだ?」。「男は泣いちゃダメなんだ!」〔父が最後にかけた言葉〕。そう叫びつつ泣き出したゾイクを胸で受け留め、自分の部屋まで抱いて行くルドヴィッチ(3枚目の写真)。

ルドヴィッチがゾイクをベッドに座らせる。母は、「どうしたの?」とゾイクに訊くが、その一方で、ルドヴィッチは、彼女が、隠しておいた自分の日記(一種の詩集)を読んでいたことに気付く。「これは、私的なものだ。ここは私のウチなのに、秘密も持てないのか!」。それに対し、「美しい言葉だわ」と讃えるアンキィッツァ。だが、ルドヴィッチは、「よくも言えるな! 君に盗み見る権利はない! 出て行って欲しい。聞こえたか? 今すぐ出て行くんだ!!」と激高する。その声に反応して、カラシニコフをつかんで部屋を飛び出して行くゾイク(1枚目の写真)。それを見た母は、「何をしたの?」。「私がか?」。「そうよ!」。ルドヴィッチもアンキィッツァには弱い。結局2人で園内を「ゾイク!」と捜し廻ることに。そこに、中尉の部隊一のスナイパーが歩いて園内に入って来る。「ルドヴィッチ、どこにいる?!」と呼ぶ隊員。ルドヴィッチはアンキィッツァを門番の詰め所に隠し、隊員の前に現れる。「何度、呼ばせるんだ? 中尉からのいい知らせだ。あんたにとって幸運の日だな」。そこまで言ったところで、銃声が1発響き、ルドヴィッチの顔一面に血しぶきがかかる。そして、もう1発。崩れるように倒れる隊員。ゾイクが撃ったのだ。ゾイクは、死んだ隊員の所まで歩いてくると、復讐を込めて3発連射する(2枚目の写真)。子供が銃で大人を射殺するシーンなど、映画でも、滅多に見られない〔『キック・アス』のジョークのような殺人は別にして〕。「狂ったのか? 何をする? 自分のしたことを見てみろ!」。止めに入る母。「もう十分しょ。あなたの父親じゃない。大げさに言わないで」。一番の部下を殺したことがバレるのを危惧するルドヴィッチと、夫を殺された恨みをぶつけるアンキィッツァ。その間に、ゾイクは、ルドヴィッチに奪われたカラシニコフを奪い返して逃げて行った(3枚目の写真)。

息子のことが心配で園内を探し廻る母。猿舎の中でタバコを吸っているゾイク。「いらっしゃい」と声をかけても(1枚目の写真)、吸っていたタバコを、母に向かって指ではじき飛ばしただけ。そして、去って行く。ゾイクにとっては、母がルドヴィッチと親しくしているのが気に入らないのだ。一方、ルドヴィッチは部屋に戻ると、共産党政権下で内務省に務めていた「お偉方」だった頃の自分の写真に見入っている。そこにアンキィッツァが入ってくる。「あれは、私じゃなかった。他の人間になってた。黒革の磨き上げられたブーツ。共産主義がすべてだった。ある日、すべてが崩れ去った」。これは、ルドヴィッチの過去への最後の言及だ。そんなルドヴィッチを優しく労わるように抱擁するアンキィッツァ。2人の間には愛が芽生えていた。その頃、ゾイクは狼舎の前で、狼に餌をやっていた(2枚目の写真)。街中に響き渡る警報。それを聴きながら、何事かを思いつめるゾイク(3枚目の写真)。

その夜、ルドヴィッチとアンキィッツァはベッドの中で愛を交わす(1枚目の写真)。翌朝、ゾイクは1人で動物園を後にする(2枚目の)。そして、ルドヴィッチは中尉の部下を殺したことがバレないよう、死体をライオン舎に放り込む(3枚目の写真)。餌不足のライオンにとっては、嬉しいプレゼントだ。

しかし、その夜、街全体が激しい砲撃を受け、今まで対象とならなかった動物園にも砲撃が加えられる。炎上する猿舎(1枚目の写真)。ルドヴィッチは必至で何種類もの猿を救おうとするが、1人でできることには限界があった。朝になり、すべての後始末が終わり、疲労困憊して部屋に戻り、煤けた顔を洗うルドヴィッチ。アンキィッツァが、「ここを出ましょう」と話しかける。「私は、留まる」。「命が危ないわ」。「動物はどうなる?」。「それがどうしたの? 兵士達が来たら殺される。誰も、動物のことなんか心配しない」。「私が心配する。私が出て行ったら、みんな死ぬ。私は矜持を持って ここで死ぬ。難民として食べ物を乞いて生きたくはない」。「分かってないのね。隠れる所はどこにもないの。お願い。夜 歩いて国境まで行きましょ」。「私は留まる」。ルドヴィッチは、頑固一徹だ。

一方、狼舎では、市街から戻って来たゾイクが、狼舎の惨状を見て涙にくれている。死んだ狼を抱き、「目を覚ませ」と何度も呼びかける(1枚目の写真)。そして、園内に響き渡るような悲惨な叫び声をあげる。急いで駆けつけるルドヴィッチ。ルドヴィッチから離れて引きこもるゾイクに、「男だって泣く時は泣いていいんだ。だが、内緒だぞ、誰にも言うな」。その言葉に涙を流すゾイク(2枚目の写真)。そして、ルドヴィッチにもたれて声を上げて泣く(3枚目の写真)。ゾイクの子供らしさと人間らしさを感じさせる感動的なシーンだ。ゾイクは、最後に生き残った狼の子をルドヴィッチから渡され、宝物のように抱きかかえる。

楽しそうな母子を部屋に残し、「5分で戻る」と言い、動物達に最後のお別れを告げに行くルドヴィッチ。遂に、離れる決心をしたのだ。動物園の入口でキスを交わすルドヴィッチとアンキィッツァ。最高に幸せな瞬間だ(1枚目の写真)。門扉を開けて外に出てはしゃぐアンキィッツァ。しかし、一発の銃声の音とともに、アンキィッツァは地面に倒れた。永遠に(2枚目の写真)。

それから間もなく、街に国連軍が進攻し、動物園も保護下に置かれた(1枚目の写真)。もう動物達が酷い目に遭う心配はなくなった。ルドヴィッチに課せられた任務は完了した。ルドヴィッチとゾイクは、園内の片隅に穴を掘り(2枚目の写真)、アンキィッツァ/母を丁重に葬る。再び涙にくれるゾイク(3枚目の写真)。これで、本当の孤児になってしまった。ルドヴィッチは自らの詩の一節をアンキィッツァに捧げる。「別れも、死もない。風の音に、君の声が聞こえる。死の中に、君の歌が聞こえる」。

これから後、台詞は全くない。国連軍の管理地域に向かって歩く2人。ゾイクは、しっかりと子狼を抱いている。ゲートまで来て、「これからも、一緒?」とばかりにルドヴィッチを見上げるゾイク(1枚目の写真)。ゾイクの手を握って微笑むルドヴィッチ。それで、安心して2人一緒にゲートをくぐる。ルドヴィッチは恐らく娘や妻のいるパリには行かないであろう。そして、ゾイクと共に、2つの過去と訣別した新たな人生を始めるのであろう。

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